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  ◆第1章◆
 戦いの始まり 
 

「ようこそ参った、四方の勇者たちよ!」王の声が朗々と響き渡りました。こう始めるのが慣わしなのです。「ようこそ参った、伝説に倣い、栄光を求める力ある者たちよ!」王はもう一度、城の露台から呼びかけました。その眼下に広がる広場は、おびただしい群集で埋め尽くされています。王に応えて、そこから城壁さえ揺るがしかねない、大きな歓声が湧き起こりました。ここは王都ヴァレイ、気の遠くなる程の昔から、アクラル王国の中心だったこの都は今、いつにない興奮と活気に包まれていました。
 広場の群集には、ヴァレイの人々はもちろんのこと、他の街からやってきた人々も沢山いました。これから始まる出来事を一目見ようと、方々から駆けつけたのです。彼らに混じって、そこかしこに物々しい雰囲気の者たちが集団を作っていました。王はそれを見てにっこりと微笑みました。なぜなら彼らこそ、この出来事の主役、ウェローの智慧の書庫から、またゼレスの堅固な城砦から、はたまた遠く海を隔てたアクラリンドの地から、栄光を手にするべくはるばる馳せ参じた、アクラル各地の騎士団の面々だったからです。
 十年に一度、かつてこのアクラルを救った英雄たちに因んで開かれる一大催事、最も優れた騎士団を決める大アクラル競武会が、今まさに始まろうとしているのでした。


 ひとしきり王が大会についての説明を終えると、吟遊詩人が古代の戦いの物語を唄い始めました。その昔、世界を覆わんとした闇のこと、そしてその闇と戦い、これを破った勇者たちのこと。本当にあったかどうかは誰一人知りませんが、誰一人聞いたことのない者はいない物語。これがこの大会の由来なのでした。戦いの技を競い合い、最も優れた勝者は勇者の後継者として、同じように末永く語り継がれる栄誉に与るのです。久しく大きな事件もないアクラルで、この大会は歴史に名を残すまたとない機会でした。
 歌が終わると、王が今一度、姿を現しました。
「いざや戦え、アクラルの勇者たちよ! いにしえの武勇をその身中より甦らせよ! いざや戦え、英雄の智を継ぐ者たちよ! 証しを示し、その名を不朽のものとせよ!」
 何百年もの間、一字一句たりとも違えられたことのない文句に、都中が大きな歓呼で応えました。そしてそれを合図に、騎士団は街中に設けられた闘技場へと次々に散ってゆきました。それ以外の人々も、ひいきの団を追って後に続きました。
 こうして大アクラル競武会は始まりました。これから繰り広げられる無数の試合の中から、どんな勇者が誕生するのか、それはまだ誰にも分かりません。
 そしてここに、分からないどころか、まるで関心を払おうとさえしない者がひとりいました。



「♪魔物の影も今はなし、勇者の剣も蔵の中……いや、歌なんか歌っている場合じゃない」宿屋の中で、ウィル・フェルネンはぼやきました。店の中は閑散としていて、彼の他は店の主人の姿くらいしか見えません。みんな開会宣言を見に出かけているのです。
「はるばる都までやってきたのに、誰もまともに相手してくれない。よりによってこんなお祭りとぶつかるなんてついてないなあ」はるばる都まで来たものの、十年に一度の大会のことなど、すっかり忘れていたのです。
「なんの用で来たか知らんが、間が悪かったな、お客さん。今、この街には二種類の人間しかおらんのさ。大会の見物客か、でなけりゃ大会に参加する騎士団かだ。大会の間は、他のことは一切合財、後回し。見向きもされんよ」と宿屋の主人が言いました。
「あんた、騎士かい?」若い客が机に立てかけた剣と盾を見て主人は言いました。
「俺のご先祖も騎士だったそうだ。だが剣より包丁の方が性に合ってたらしくてな、以来、代々うちはこの店をやってるのさ。あんたの剣はどうだね、ちゃんと言うことを聞いてくれるかね?」
「申し分ないよ。これでも結構腕には自信がある。それでお城に勤めたいんだ」
「おやおや、そりゃまた……」大時代な、と言いかけて主人はやめました。客を不快にするのは彼の流儀ではありません。
「あ、いや、ふむ、仕官かね、どうかな。お城のお役人も見物に夢中だろうからねえ。大会が終わるまで待たされるだろうよ。多分……1年くらい」
「1年!? 冗談じゃない。そんなに待てないよ」
「だったらどこかの騎士団に入って、この大会に出た方がいい。名を上げる一番の近道だ。あんたさえよければつてを紹介して……」
 突然、主人の声を遮るように、店の外で大きな音が響くや、店の壁を揺らしました。続いて、人の怒鳴り声。
「えいくそ、なんだ、喧嘩か? 迷惑な!」
 主人が包丁片手に進むより早く、一陣の風がその横を通り抜けて、扉を開いて外に飛び出してゆきました。目を白黒させる主人の耳に、後を追うようにして声がかすめました。
「騎士の務めは弱き者を護ること!」