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◇◇◆◆ |
| 「ではな、息子よ。留守中、しっかり勤めるのだぞ」 市長の外遊に付き従い、父が街を離れて数日。 幸いくだんの太刀は打ち直すことができた。しかし、あれ以来、ただでさえ険悪な二人の関係は、一段とぎくしゃくしたものになっていた。 |
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| ある夕暮れ時、部屋の扉がけたたましく開かれた。 「スルギ、来てちょうだい。通りで怪しげな連中を見たの。会話も変だった。よくない企みをしてるのよ、間違いないわ」 「間違いないのなら、しかるべき筋に相談しては? 市長のお付きとか……」 「シュパン? 駄目よ、全然取り合ってくれないの」 「警備兵がいるでしょう。第一、拙者の務めはアルヴィ殿の警護であって、街の治安ではござらん」 また太刀を折られでもしては敵わない。 「じゃあ、結構よ! あたしひとりで行くわ!」 止める間もなく、小さな嵐のように出て行ってしまった。どうしてなんでも自分でやろうとするのだろう。小娘ひとりにできることなど、限られているだろうに。 |
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| なんとなく落ち着かず、通りに出てみた。既に彼女の姿はどこにもない。不意に幼児を連れたひとりの婦人から声をかけられた。 「おや、あんたアルヴィちゃんの家来だろ? ひとりとは珍しいね。今日はご主人様はお休みかい?」 家来という物言いが引っかかったが、努めて顔に出さぬようにした。 「この間は、うちの子を助けてもらってありがとうよ。アルヴィちゃんによろしく言っておいておくれ」 「助けた? なんの話……」 婦人は知らぬはずがない、という表情で続けた。 「通りに魔物が現れてね。まだ小さいやつだったけど、そいつがうちの子を襲ったのさ。それをあの子が護ってくれたんだよ」 「魔物を!? アルヴィ殿が!?」 「そうさ。刀で必死に切りつけてね。あたしらが駆け付けるより早く、追っ払ってくれたのさ」 では太刀が折れたのはそのためか!? しかしそれなら、なぜ彼女はそう言わなかったのだろう? すると、周囲から口々に声が挙がった。 「役人が余計に税を取ろうとするのを止めてくれたよ」 「医者を格安で手配してくれたっけなあ」 「重い荷物を抱えている時に……」 最初の婦人が、分かったろう、という風に言った。 「みんな、あの子には感謝してるよ。そりゃ、ちょっと愛想がないかもしれないけど、一生懸命だからね」 分からない。一体、みんな誰の話をしているのだ!? 自分の知っているあの娘は、身勝手で失礼で人に頭を下げることを知らない人間で…… 「ねえ、あんた、あの子を護っておあげよ。可哀想に、市長の娘なんかに生まれたばかりに、なんでもかんでも背負い込もうとしてるじゃないか。誰かが支えてあげなきゃね」 市長の娘に生まれたのが可哀想!? 「それにしても魔物が街中に出るなんざ、長いこと生きてきて、初めじゃな。どこから入り込んだんだか。わざわざ招き入れでもしなきゃ、無理そうなもんじゃが」 不意に彼女の言葉が脳裏に浮かんだ。怪しげな連中を追う、そう言っていたのではなかったか? 慣れない刀で魔物を追い払い、今また……。嫌な予感がした。 「失礼だが、どなたか最近、不審な集団を見かけた方はござらぬか?」 すぐ応える声があった。礼もそこそこに走り出す。頭の中はごちゃごちゃのままだったが、それより先にすべきことがあった。 無事だといいが。 |
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| その頃、街外れの廃屋の様子を窺う影があった。 「……見つけたわ。見張りがいる、間違いないわね」 そして暗がりをぬって、そっと忍び込んでいった。 |
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