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アリエノの気が鎮まるまで待ってから、私は姿を現した。私を見て彼女は怪訝そうに言った。
「……ユマ・ランカン?」
「私を知っているのか」
「当然でしょ。<奈落>いちの有名人だもの」
「不用意にギルドの名を口にするのは賢明じゃない」
それが癇に障ったらしい。途端に顔をしかめた。
「なんの用?」
「あんたの今度の仕事のことで来た。あれはあんたには荷が勝ちすぎる。辞退するのが身のためだ」
「余計なお世話よ。今、準備している魔法がうまくいけば、どうってことないわ。そりゃ、いつも成功するとは限らないけど、だからこうやって……」
苛立ちが戻って来た。この世間知らずに、用なしと見なされた者が本当ならどんな扱いを受けるのか、教えてやりたかった。どうやって<奈落>がその権威を保ってきたのかを、彼女が向こう見ずにも立ち入ろうとしている世界がどんなものかを。
私がこうしていられるのは、ギルドの温情とでも? とんでもない! 実績があればこそだ。それが何を意味するのか、彼女に理解できるだろうか?
少なくとも、私の沈黙はアリエノも理解したらしい。
「……知ってるわよ」彼女は言った。「知ってるわ。<奈落>がどんなところかくらい。馬鹿にしないで!」
「本当に? 知った上であえて入るとは思え……」
「他に雇ってくれそうなところなんて、なかったからよ!」
不意に大粒の涙がこぼれて、床の水晶くずを濡らした。
涙ならギルドに入る前も、入ってからも沢山見てきた。金持ちに貧乏人、善人や悪党、そして自分の。
「あたしには魔法しかない。でもちゃんと勉強する機会はなんてなかった。誰もあたしに手を差し伸べてなんかくれなかった」
あの父親のことが脳裏をかすめた。肉親。金。誇り。
「あたしは誰の手も借りずに生きていく。少なくとも、そうなるよう努力する。それで駄目なら死ぬだけよ!」
ありきたりの言葉がなぜか、ちくりと胸を刺した。
古い記憶が呼び起こされそうで、私はそれ以上、話すことができなかった。
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