![]() |
![]() |
あれからあちこちの土地を巡り、魔物相手に腕を振るった。街を拠点に守ったり、攻め込んだり、の繰り返し。 |
| お呼びが掛からない時は、たいがい酒場にいた。 以前なら、それで楽しくやっていられたはずだったが、あれ以来、俺の気は晴れなかった。あの白い肌の男のことがずっと引っかかっていた。なんだってやってのける、これまでずっとそういう自負を持って、しかもそれで通用してきたのに、そうじゃないってことを思い知らされたからだ。 あの時、死んでたら、信じたままでいられただろうか? いや、きっと最期の瞬間に絶望していたに違いない、そう思う。それだけに腹立たしい。 要するに、やつの言ったことは正しいってことだ。問題は、それを俺より若いやつに教えられたってこと、そしてそいつが俺を助けたばっかりに死んだってことだ。 それがどうにも俺を苛立たせる。死んだやつには、借りも返せない。俺は死ぬまで背負い込まされたままだ。 くそ。俺は杯をあおった。 酒場の扉が開いた。同時に何人かの酔っ払いがろれつの回らない歓声を上げた。なんとはなしに目をやる。 |
![]() |
俺は最後に見た時の様子を思い起こした。確かに致命傷だったはずだ。仮に生き延びたとしても、当分か下手すりゃ一生、寝たきりだ。なのに、やつは何ごともなかったかのようにそこにいる。一体、どうなってやがる。 混乱する俺には目もくれず、やつは足早に店の奥に進んでいく。酒場の女たちが頭のてっぺんから声を出してまとわりつくのも、お構いなしだ。 「へっ、相変わらずそっけねえやつだ。だが、妙に様になってやがるんだなあ、しゃくだがよ」 俺の傍らで赤ら顔の戦士が杯を掲げて片目をつぶった。 「おい、精霊にかけて何者だ、あいつは?」 「有名な話さあ。どんな戦場に行っても必ずやつだけは生きて戻る。付いた仇名が不死身ってな。しまいにゃ、若い頃にやつと会ったことがあるって言い出す年寄りまでいる始末よ。ずっとあのままだってな。そんな噂が付くくらいの凄腕ってことさね。女どもがのぼせるのも無理はねえ。あやかりたいね」 戦士はなおもべらべらしゃべり続けたが、俺はもう聞いていなかった。不死身だと? 口にした当人は信じていないようだったが、俺には分かった。どんな仕掛けか知らないが、嘘じゃない。普通の人間があれで生きているはずがないんだ。 にわかに頭に血が登った。じゃあ、やつはどんな危険を冒したって、大丈夫だってことじゃねえか! そんなやつが、この俺に説教垂れただと!? 冗談じゃねえ、こちとら、たったひとつの命を張って戦ってるんだ。 見ると、やつは奥でなにやら買い物をしていた。小さな皮袋をひとつ受け取って、また引き返してくる。足でも引っ掛けてやろうかと考えているうちに、やつは通り過ぎちまった。 外へ向かうやつを、また女たちが誘う。だがまるで視界に入っていないかのように、にべもない。女たちは未練がましく、目の前で閉じられた扉を見つめて身をくねらせている。それがまた苛立たしい。 俺は席を立って後を追った。 |
| 通りの雑踏の中でも、あの白い肌は目立つ。すぐに目標を見つけた俺は、気付かれないよう距離を置いて、後を付けた。 後を付けて……どうするつもりだったのだろう? 何か言ってやりたかったが、なにを言うつもりだったのか、自分でもよく思い出せない。とにかく追わずにはいられなかったんだ。 それにしてもどこに向かっているんだ。 不死身野郎はどんどんさびれた一角に入っていく。不死身が本当なら、給金の取りはぐれだってないだろう。こんなところに住まなくたって済むはずだ。一体…… めっきり人気も減った。まさか、なにかこいつよからぬことでも、とあれこれ想像を巡らせていると、やつは道端に座り込んだ少女の前で立ち止まった。生気のない顔、それがやつを見た途端に輝くのが、遠目にも分かった。 やつは例の皮袋を取り出して、中からなにかを渡した。薬か、なにかそんなようなものに見えた。少女は何度もお辞儀してから、うれしそうに走り去っていった。 やつはまた歩き出した。また立ち止まる。後は同じだった。行く先々で、やつは見るからに貧しい連中に、薬を与えて回った。 なぜあんなことをしているんだ、やつは? 自分が不死身だからって、そのお裾分けのつもりか? それとも使い切れない程の金でも溜め込んでいて、優越感にでも浸っていやがるのか? 俺がやつの真意を測りかねていると、不意に耳障りな鳴き声が聞こえた。聞き覚えのある声。魔物だ。近い。 引き返そうとする俺の視界に、白い影が飛び込んできた。やつだ、いつの間に? 「急げ!」 声だけ残して走り去る。気付いていたのか、俺に!? くそ、なんだってんだ。怒鳴り返そうとしたが、再び轟いた咆哮に、俺は走り出した。 「ええい、ちくしょう!」 毒づいたが、果たして、やつに言ったのやら、自分に言ったのやら。 |
|