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「五匹!」 仕留めた獲物の数を、その死骸を踏みしだきながら、皆で高らかに宣言する。街を襲った魔物は、思ったより数が多く、何匹かの侵入を許してしまった。だが幸い、充分な友軍のお陰でさしたる被害は出さずに済んだ。 既に街の連中が後片付けを始めている。俺は仲間たちから離れて、辺りの様子を見に行った。 大した被害ではないといっても、それはあくまで街全体から見ればの話。通りを歩けば、そこかしこで倒壊したり、焼け落ちたりした家屋の姿が見えた。 ふと俺は今いるのが、さっきの貧しい通りだということに気が付いた。戦いに気を取られていたのと、なによりあまりに様子が一変していたので分からなかったのだろう。相当、魔物が好き放題したようだったが、今はもう静まり返っている。 静けさの中で、なにかが聞こえた。微かな……声か? |
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どこか予感めいたものがあった。 |
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| 窓から月が昇ったのが見えた。夜も更けたらしい。 あれから何杯も杯を重ねたが、一向、気分が紛れない。やつが死んだと思った時と同じだ。後味の悪さが舌の上の味まで悪くしやがる。 やつはまだあそこで泣いているのだろうか? そりゃ、あの少女には気の毒なことをしたが、なにも俺たちのせいじゃないだろう。俺たちが街を守るために雇われているにしても、だ。 大体、戦場でだって、沢山死ぬんだ。この稼業でそんなこと気にしてたら、身が持たない。不死身のくせに……不死身……。……。 どうにも落ち着かず、俺は店を出た。冴え冴えとした月明かりの下、知らず知らず、俺はまたあの通りへと向かっていた。 |
| 街の連中ががんばったと見えて、通りはあらかた片付いていた。魔物に荒らされる前よりきれいなくらいだ。 例の場所に行ってみた。少女の姿はもうない。多分、もう土の下なのだろう。 やつはいた。石に腰掛けてなにかしている。 近寄ってみると、なにやら小刀を自分の腕に突き立てている。冷たいものが背筋を走る。 |
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「なにやってんだ、おい!」 やつは俺を見た。どうやら俺のことは分かったらしい。 「刺青を彫っているんだ」 刺青? そういや、こいつの体、妙な模様がちらほらあるが……それにしたって、こんな時間にこんなところでか? 大丈夫か、こいつ? 「これは……あの子を救ってやれなかった自分への戒め、そしてあの子を忘れないための、あの子がこの世に確かに存在したことの証だ」 「あの子って……あの娘か……?」 それきり答えずに、やつは腕を刻み続けた。 おい待てよ、それじゃこいつ、誰か死ぬたびにこんなことをしてきたのか? それが体中にあるってことは? 「みんな死ぬ」 「え?」 「みんな死ぬ。だからせめて俺は忘れない」 そうだ。魔物にやられようと、同じ人間に殺されようと、あるいはうまいこと生き延びようと、結局は同じことだ。最後には土に還る。教会にいた頃、この種の話は嫌というほど聞かされたもんだ。 だがこいつは違う。不死身。死なない。生き続ける。“みんな”には含まれない。それが意味するのは…… 「なあ……あんた、一体……何歳なんだ?」 乾いた舌の問いと、わずかな沈黙。 「……三百と……忘れたよ」 砂漠の風を思わせる声は、今では自然なものに聞こえた。俺たちのちっぽけな時間では推し量れないなにかを含んでいた。 その時、俺はこいつに感じていた恐れの正体を悟った。こいつは俺の想像もつかないものに耐えている、俺なんか足元にも及ばないんだという予感。自分がちっぽけな存在だと告げられる気がして、それが俺は怖かったのだ。 無性に自分が腹立たしかった。それ以上、言葉を交わすことができず、俺は立ち尽くしていた。 やつは無言で腕を刻み続けていた。 |
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